江戸時代の地本(じほん)とは
蔦屋重三郎が江戸時代の有名な地本問屋だったのはわかりましたが、では「地本」って何なのさ~って話ですよね。
▼江戸時代の版元とは▼
元々の意味は、上方(主に京都)から下ってきた本ではなく、江戸の地で作られた本という意味でした。当時は政治だけでなく文化の中心も徐々に江戸に移ってきた時代だったんですね。
地本問屋とは、江戸で出版販売を行っていた店ということになります。
地本には色々な種類がありました。主なものをご紹介します♪📖
草双紙(くさぞうし)
江戸時代に出版された絵入りの娯楽本の総称で絵草紙(えぞうし)・絵双紙(えぞうし)・絵本(えほん)とも呼ばれ、時代や内容によって以下のように分かれていました。
赤本
表紙が丹色(にいろ)なので赤本と呼ばれます。
元禄~享保(蔦重の少し前)の時代に盛んで、幅広い年代の人たちに読まれていました。
画工 | 菱川師宣 近藤清春 鳥居清満 西村重長 奥村政信など |
版元 | 鱗形屋 村田屋など |
内容 | 昔話(桃太郎、さるかに合戦など) 歌謡 武勇譚など |
黒本
1744年~
表紙が黒いから黒本。
内容は歴史物語、軍記、浄瑠璃など。
青本
1744年~
表紙が萌黄色(もえぎいろ)のものを青本と言います。(青信号が実際は緑色なのに通ずるものがある…?)
内容は黒本と同じ。
黄表紙
黄表紙(きびょうし)は、恋川春町『金々先生栄花夢』(1775年刊行)から式亭三馬『雷太郎強悪物語』(1806年)までの草双紙の総称である。知的でナンセンスな笑いと、当時の現実世界を踏まえた写実性が特徴である。
恋川春町 著 ほか『金々先生栄花夢』上,米山堂,大正15. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1183081 (参照 2024-03-13)
↑こちらは、江戸に出て立身しようと思い立った金村屋金兵衛という貧乏な若者が、旅の途中、餅屋で粟餅を頼んでいるシーンですね。
『金々先生栄花夢』のストーリーはこちら
黄表紙は、政治を風刺するような内容など大人向けの読み物で、漫画的な要素もあり人気を博しました。松平定信の寛政の改革で取り締まりの対象となり、多くが発禁になってしまいます。
重三郎もこの影響をモロに受け、財産の半分を没収される事態になってしまいました。
合巻(ごうかん)
長編化した黄表紙をまとめたもの。
人情本(にんじょうぼん)
庶民の色恋を描いた読み物の総称です。今でいう恋愛小説ですかね。江戸後半から明治初年まで流通し、女性に多く好まれました。
読本(よみほん)
中国の白話小説の影響を受けて江戸時代後期に流行した伝奇風小説集。寛政の改革以降流行し、文化文政の頃全盛となり、明治になっても活字本として流布し読み継がれた。
文学性が高く、高価な本だったので流通数は少ないようです。(貸本屋のおかげで読者はたくさんいた)
曲亭馬琴の『南総里見八犬伝』が有名ですね。
談義本(だんぎぼん)
18世紀中頃に江戸を中心に流行した小説類。
狂歌本(きょうかぼん)
狂歌(社会風刺や皮肉、滑稽を盛り込み、五・七・五・七・七の音で構成した短歌)を集めた本。
有名な狂歌としては
白河の清きに魚のすみかねて もとの濁りの田沼こひしき
がありますね。松平定信(白河藩主)の政治は清廉潔白だけれども統制が厳しくて息苦しい、その点、田沼意次の時代は多少裏もあったけれども自由で生きやすかったなぁという庶民の気持ちを魚に例えた秀逸な歌です。
蔦屋重三郎も狂歌の愛好家で、「蔦唐丸(つたのからまる)」という狂名で吉原連(狂歌サークルみたいな集まり)に属していました。
江戸時代になると挿絵が描かれるようになり、「絵入狂歌本」と呼ばれていました。耕書堂で発刊された歌麿の『潮干のつと』↑は空摺りや雲母など豪華な技法が施された贅沢な作品だったようです。カラフルで美しいですよね✨
戯作本
中期以降の江戸の小説、読物、黄表紙、合巻、洒落本、談義本、滑稽本、人情本の総称。
まとめ
江戸時代の主な地本の種類をまとめました。
その内容は現代に負けず劣らず多岐にわたっており、読書が人々の大きな娯楽の一つだったことが伺えますね。
江戸時代の日本人の識字率は60%を超えていたとも言われています。世界でもトップクラスの識字率を誇ったのは、出版業界が盛り上がっていたことも大いに関係しているでしょう。